蒼夏の螺旋 “愛だよ、愛vv”

 


そもそもは、その昔 バレンタインという司教さんがおりまして。
時は厳しい戦さのさなか、
士気に関わるのでと
“兵士たちは戦の間 結婚してはならない”とかいう、
国の方針が発布されていたのだけれど。
そんなこと言われても、
それこそ明日は我が身も危うい戦禍の最中。
愛する二人、変わらぬ想いを誓って何が悪いと、
お達しなんか何するものぞと思っても無理はなく。
そんな中にあって、
やはり厳罰が待っているのに、
バレンタイン司祭は、結婚式に立ち会い続けた。
結果としてそのせいで処刑されてしまったが、
勇気ある彼はのちに聖人とされ、
彼の功績を広める意味もあってのこと、
その処刑の日が“愛の日”とされた…のだとか。



      ◇◇



 「…なんてのか。
  尊い日だっていうのは判ったけどサ。」

人を愛すことは神聖だ。
だから、たとえ国のお偉いさんが何を言って来ても関係ない、
その情愛を貫きなさいと、命を懸けて説いた尊い人。
そこまで壮絶な日だってことと、
勇気をもって告白してごらん、
チョコレートが応援するよとした日本でのお祭り騒ぎとでは、

 「何とはなく、
  温度差があり過ぎるような気がする…と?」

読みかけの新聞から眸を上げて、わざわざ訊いたゾロだったのへ、
うんと深々、こっくりこと頷いたルフィさんだったのだが。
その腕へ大きめのボウルを抱え込んでおり、
キッチンだけに留まらぬ勢いでフラット全体へ広がる匂いは、
何とも甘くて香ばしく。
これは間違いなく、
そのチョコレートにまつわる何かしら、製作途上の彼だと知れて。

 「……う〜ん。」

頭からかぶったとして、
顎まで十分隠れるんじゃなかろうかというほども、
それはそれは大きいボウルを。
何やらロゴの入ったトレーナーの胸元に掻い込んで。
“取り落とすまいぞ”との大事そうに抱え込んでる姿は、
小さな子供がお気に入りのボール、
ひしと抱き締めている姿にさも似たりで、
そりゃあ愛らしかったものだから。
微妙なことを訊かれているにもかかわらず、
ついつい口許が にやけてしまいそうなの、
何とか頑張って食い止めつつ。
いかにも“頑張って考えております”とばかり、
視線を手元へ降ろすと、
どこかにいい答えはないものか、
それこそ経済新聞の紙面に頼ろうと仕掛かったものの、

 「ぞ〜ろ、そんなんに載ってるようなお堅い話じゃ通じねって。」

機先を制され、おやおやと。
こちらの思惑を所作から読まれたのは まましようがないとして、

 「通じないってことは、誰かに説明するってか?」

一応はと訊いたところ、
やはりこっくりこと、小さな顎を引き 頷くルフィであり。
ボウルの中を時々覗き込みながら、

 「サッカーチームの子らにサ、
  バレンタインデーと言えばチョコを渡すのは
  日本だけなんだよって話をしたら、
  でもでも、世界的な記念日だって聞いたよって、
  そこまで知ってる子がいてさ。」

今時じゃあ、小学生だってネットで色々と調べられるから、
そういうあたりで聞きかじったらしくって。

 「そいで、だったらいっそのこと
  正確なところってのを答えられるよになっとこうって調べたら、
  そんな“おごそかなこと”が発端だったなんてさ。」

口許を尖らせたのは、
そんな“おごそかなこと”が
こんなお祭り騒ぎになってるなんて知らなかったものだから、

 「なあゾロ、
  こんな難しいことが始まりだよって、小学生に話していいのかな。」

むーんと一丁前に眉を寄せ、
鹿爪らしく考え込む、それはかあいらしい奥方なのへ、

 「…そうさな。とりあえず、
  ルフィせんせえはどんな始まりの行事でも関係ないって。
  美味しいチョコの日って思ってる…で、いいんじゃね?」

再び持ち上げた新聞で、お顔の下半分を隠したご亭主だったのは、
口許に浮かぶ苦笑を押さえきれなくなったから。
抱え込んだボウルの中、
それが膨らむチョコケーキの生地だったなら
一体どれほどの量のを作るつもりでいるんだか。
そのまま冷やして固めるだけの、トリュフや板チョコだったとしても、
中味がぎっちり詰まってる、
ボウリングのボールクラスのが出来上がりそうで。

 「そんなん答えになってない。////////」

もしかしたらば、
知り合いのお子様たちへも、小さいのをいっぱい作って配るのかもだが。
それから…甘いものは苦手と知ってるけれど、
縁起ものだとか何とか言って、
ゾロにも一つと予定に入っているのだろうが。
あとのたくさんは、自分のお口に入るものとなるに違いなく。
子供たちへの憂慮も、勿論真剣に考えてる彼なんだろうけれど、
その片手間にやってることの可愛さが、
何というのか、苦笑を禁じえないことなものだから。

  “なんて可愛いんだろか、ちくしょーめ。”

不敵な笑いが止まらない、
ロロノア係長だったそうでございます。




  〜どさくさ・どっとはらい〜  11.02.12.


  *世界的規模の不景気の話をしつつ、
   手と目はしっかり、スーパーのチラシに集中していて、
   時々特価品へ丸をつけてたりする…ってことありません?
   それはそれ、これはこれ。
   女性に顕著な行動行為なんだそうですよ、これ。
(笑)

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